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契約AIの「長距離走」時代へ:Ivoが公開したSageが法務実務に問うもの

契約AIの「長距離走」時代へ:Ivoが公開したSageが法務実務に問うもののイメージ

ニュースの概要

契約インテリジェンス企業のIvoが、複数段階にわたる契約業務向けに追加学習したオープンソースのAIモデル「Sage」を公開したと報じられた。契約実務では、条項を一度読んで終わりではなく、取引の背景、社内方針、交渉の履歴、承認基準を踏まえながら、何週間にもわたって判断を重ねる。Sageはその長い工程に対応させたモデルだとされる。訓練には公開データと、弁護士が作成した合成データ(=人が設計して作った模擬データ)が使われた。開発者や法務部門はモデルをダウンロードし、改変や追加学習ができる。法務AIの分野で、こうした無償公開は珍しい動きである。

引用元: Ivo、長期的な契約業務向けのオープンソース法務AIモデルを公開(LawFuel)

分析・見解

条項チェックから「案件の最後まで付き合う」AIへ

従来の契約レビューAIの多くは、渡された契約書から危うい条項を見つける作業が中心だった。いわば一枚の書類を読む「短距離走」である。しかし実際の契約業務は、初回ドラフトの作成、相手方の修正案の確認、社内の承認取得、最終調整と、複数の段階が続く「長距離走」だ。

Sageが狙うのはこの長距離走である。前の段階で何を譲歩し、何を譲らなかったかを覚えておき、次の段階の判断に生かす。人間の担当者が当たり前にやっていることを、AIにもさせようとしている。

合成データの使い方が品質を左右する

契約書は秘密性が高く、本物の実務データは外に出にくい。そのため学習データの確保が法務AIの最大の壁だった。Ivoは公開データに加え、弁護士が作った合成データで補ったという。

合成データには長所と弱点がある。長所は、守秘義務に触れずに、交渉の流れまで含む多様な場面を作れることだ。弱点は、作り手の想定を超える現場の癖、たとえば業界独特の慣行や取引先との力関係が反映されにくいことである。同じ問題は医療や会計のAIでも見られ、最終的には各社が自社の実データで追加学習できるかが成否を分ける。今回オープンな形で公開された意味は、まさにここにある。

オープン公開は「囲い込み」への対抗軸になる

これまで法務AIは、クラウドの有償サービスとして提供されるのが主流だった。利用者は契約書を外部に送る必要があり、機密性を気にする企業や法律事務所は導入をためらってきた。

モデルを手元にダウンロードできれば、社内の閉じた環境で動かせる。契約書が社外に出ない運用が可能になる。一方でIvo自身は契約管理の製品を販売する企業であり、無償のモデルは自社製品の周辺で開発者を増やし、評価を高める戦略とも読める。無償だから善意だけとは見ず、事業上の狙いも併せて理解するのが現実的だ。

精度の証明と責任の所在が次の論点

長い工程を任せるほど、途中の小さな誤りが後工程に積み上がる。たとえば最初の段階で誤って譲歩を許容と判断すると、その前提で最後まで進んでしまう。

しかも、AIの出力を誰が保証するのかという問題が残る。弁護士法などの規制の下で、最終判断は有資格者や責任者が担う。Sageのようなモデルは判断を代行するのではなく、判断材料を整える補助役として位置づけるのが妥当である。今後は、長期工程での誤りやすさを測る共通の評価方法が整うかどうかが注目点になる。

ビジネスへの影響

まず自社の契約業務を段階ごとに分けて見直す

AI導入の前に、自社の契約が何段階の工程で動いているかを書き出したい。依頼受付、ドラフト、社内確認、相手方との調整、承認、締結後の管理といった具合である。そのうえで、どの段階で情報が途切れているかを確認する。担当者が替わると交渉の経緯が失われる、承認基準が人の頭の中にしかない、といった問題は、AIを入れる前に整理すべき課題だ。

Sageのように文脈を引き継ぐAIは、整理された記録があって初めて力を発揮する。過去の契約や社内方針を文書化することが、結果的に最大の準備になる。

自社運用か外部サービスかを機密性で判断する

オープンなモデルは、自社環境で動かせる自由度がある反面、運用の手間と技術者の確保が必要になる。目安としては、機密性が非常に高い案件が多く、情報システムの人員がいる企業は自社運用を検討する価値がある。逆に、人員が限られる中小企業は、まず外部サービスで小さく試し、効果が見えてから切り替える方が無理がない。

小さな試験運用と人の最終確認を組み合わせる

最初から全契約に使うのは危険である。秘密保持契約や定型的な業務委託契約など、リスクが低く件数の多い類型で試し、AIの指摘と担当者の判断の差を記録していく。数か月分の差異が溜まれば、どの種類の条項で誤りやすいかが分かり、追加学習やルール整備の根拠にもなる。最終承認は必ず人が行う、という線引きを最初に社内で決めておくことが重要だ。

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